昨日の出来事(記録として残しておきたい事柄)
昨日はとある契約事の手続きで私のサインが必要だったため、パドヴァの公証人事務所で何人かと集まったわけですが、元弁護士の女性(80歳)と不動産会社社長の女性(65歳)、会計士の女性(70歳)そして50代の公証人の女性の間で生炎上が発生。
生炎上というのはつまり、よくSNSなどバーチャルで繰り広げられるあの炎上が、実際自分たちの目の前にいる生の人間同士の間で行われた、という意味です。まあ、つまり罵詈雑言を叩き付け合う喧嘩ですよ喧嘩。
実は今朝私の耳が若干難聴気味なのですが、昨日あそこに集まった女性達のヒステリックな声の音量が肉体に苦痛を与えるといわれる130デシベル以上であったことは確かで、それが影響しているのでしょう。しかもその大きな声で飛び交う言葉の内容の酷さも加わって、今朝はすっかり心身疲弊状態の目覚めを迎えました。
朝9時。ギラギラのローレックスにヴァレンチノのスーツで決めた50歳女性の公証人の読み上げる契約のドラフト(A4に細かいフォントがびっしり×8ページ)を一言の言葉も逃さず全て細かく聞き取る元弁護士女性(80歳)、手に持ったペンを奮わせながら3行おきくらいに「ストップ!!そこおかしい!!〇〇が書かれていないじゃないの、やり直しなさい!」と突っ込む。「それでよく公証人の資格が持てたね」と毒が入る。
最初は公証人も「わかりました」とペンで上に書込んでいたのが、途中からようすがおかしくなり「わたしはこの仕事を25年やってきましたが、弁護士さん、あなたのような失礼で頭の狂っている人にあったのは初めてです、もうこれ以上私のやった仕事にケチをつけるのであれば他の公証人のところへ行って下さい!!」とニコニコ笑ったまま声を荒げる。怖い。
それを見た不動産者社長の女性が「そうですよ、弁護士さん、まずは最後まで全部読んでもらいましょうよ」と優しいけど奮える声で、間違い、誤りを見つけてやろうと目くじらを立てている80歳弁護士に言い含めようとするも、弁護士女性「あんたたちね、あたしを老人だと思って甘く見てんじゃないよ、少なくともあんたたちよりずっと長く生きているんだ、人間に疑いと不信を抱き続けて80年生きてるんだよ、そう簡単に“判りました”で済むわけがないだろ、バカ野郎、私を舐めんな」と反応。80歳。「わかりましたよ、じゃあ勝手にやればいいじゃないの、あたしなんか必要ないでしょ!」と部屋の奥に行ってしまう公証人、慌てて止めに行く会計士。我々の前に公証人を再び引っ張り出すまで1時間。
端折りますが、このあとも堰を切ったように罵詈雑言のやりとりが交わされ、合計で4時間。朝9時から13時まで、1時間で終るはずの契約サインは為される気配がなく、私は思い切ってこの台風の目のぶつかり合いに「すみませんが、私がここに来れるのは本日だけです。ここでサインをしなければ、この話しは無かったことになります それでもいいなら帰ります」と割って入り、やっと皆冷静になった次第。表情のよくわからない東洋人の顔はこういうとき炎上の冷却作用があるようです。
それにしても、わたしは、こういう人達の中で17歳だったときから生きてきているわけで、日本ではよくヤマザキさんのぶっとびぶりを指摘されるが、そんなのこの女達に比べたら可愛いもんじゃん、多少ぶっとんだ性格になってても仕方ないじゃん、と自分を労いました。
しかも…夫は夫で家族と何やら大げんかをしているとかで1月から誰にも会っていないというし、姑からの電話にも出ようとしない。どうしたことかと思うが、その兆候は実は小姑に赤ん坊が生まれた時から発生していたと言える。毎日4回も5回も電話しあっていた家族に何があったのか、これはこれでいろいろあるんだが、今日はもうこのへんで。疲れましたほんと。
まとめとして、日本を含む世界において、『イタリア良いとこ人間愛万歳』『不屈の家族愛万歳』みたいな伝説がいつまでも延々と蔓延るのは問題ですね。私のこんなゴタゴタ報告ですら人によっては「でもそれが楽しそうでいいのよ、生炎上なんてさ、人間味があっていいじゃない」と思われるだろうが、じゃあそういう方は是非中年女の130デシベル罵詈雑言の中に4時間置かれてみて下さい。
先日日本で上映前の試写会でトークをしてきた「ナポリの隣人」みたいな映画をもっと皆見てイタリアがアモーレ・マンジャーレ・カンターレで形容されるような国ではないことを、がっつり、とことんと知るべきではなかろうかと思いました。
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観察対象登場人物:ハドリアヌス/十八代目中村勘三郎/安部公房/ノッポさん/ガリンシャ/ボッティチェリ/空海/奥村勝彦編集長/ゲバラ/水木しげる/トム/スティーブ・ジョブズ/山下達郎/デルス・ウザーラ/等 総勢26、7、8名
あとがき:とり・みき