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休火山噴火 (長文)

ここ一週間内での出来事

*近所に住むCaldoverdeさん(日本人で時々私のアシスタントをなさってくれるポルトガル食文化エキスパート)がきっかけとなって、とある日本からのお客様達と夜半まで食事会
*講談社KISSの原稿42Pの仕上げ
*ぶんか社6Pショート漫画の仕上げ
*シカゴから旦那10日の予定で帰宅
*旦那風邪で発熱、寝込む
*風邪の治りきらない旦那と再びその日本からのお客様達とお食事会
*レンタカーを借りてアレンテージョ地方へ黒豚を食べに遠出
*リスボンからそう離れていないところにあるヨーロッパ最大級のアウトレットモール「Free Port」へ行って買い物祭り

・・・・・

なんていうのか、それまでの単調な引きこもり漫画家生活のリズムが完全に崩れ、今も時差ボケにでもなったかのような筋肉の妙な弛緩、疲労感がカラダと脳味噌を支配しています・・・・

漫画の仕上げはいいとして、その後の「とある日本からのお客様」との出会い、これで私の「自分の中に沸くエネルギーは漫画に全て集約して爆発させる」というセオリーが吹っ飛んでしまいました。

この「とあるお客様」は日本では恐らく知らない人は居ないと思われる、日本伝統芸能の第一人者の方でして、ハワイからのお仲間とご一緒に世界一周旅行の途中でリスボンにお立ち寄られたのでした。
私は早くから日本を出てしまったせいで日本の芸能事情などに大変疎く、それもあって何も深い事を考えずにふらふらとこの方達とご一緒させてもらったわけですが・・・・

私は漫画という創作物に自分のエネルギーを託すわけですが、このお方は舞台で生きておられるからなのか、普通にしていても表情や声やしぐさなど、体全体が表現手段となってエネルギーが放出されており、私もその相乗効果で普段話す意欲のなかなか涌かない自分のわざとらしいほどドラマチックな過去の事まで引っ張り出さないと、どうにも気が治まらぬ過剰なテンションの分泌液が脳内で大噴出し、収集の付かないことになってしまいました。

私をそこまでさせた一番大きいきっかけ、それは私の人生の師匠であるガルシア・マルケスの「百年の孤独」をなんと彼も現在読書中だった、ってことです。
これで私の中の休火山が爆発したわけですよ。

思えば子供を生んだ直後の8年間、日本に居たときに私は数足の草鞋的生活をしていたのですが、大学で教えるにせよ、テレビで料理したりレポーターするにせよ、とにかく1日数十人の人間に会うのが当たり前な毎日だったわけです。
人と接することで私は自分の体を張って自分の思うこと、考えることを表現することに全力を費やしていたために、肝心の漫画は全く芳しい作品を埋めぬままという状況でした。

リスボンに来てからはそれが完全逆転。
ヘタしたら今日はうちの家族以外誰にも会ってない、という日もざらな毎日、お陰で暮らしの手帖が本棚に並び古代ローマの復元図や行程の肖像画を飾りたてた自分の世界を保持できる仕事部屋に閉じこもって漫画という創作手段に表現したいものを集約させられてたわけですね。

それがこの「とある方」の莫大な人間エネルギーを浴びて、かつて自らが表現手段だった自分が一気に蘇ってしまったというのか・・・


そうかと思うと方やシカゴから超ハードなPhdプログラムをこなして遣って来た旦那は疲労困憊オーラが出まくっており、付いた翌日から発熱。
「シカゴに帰りたくないよう・・・シカゴはもういやだ・・・・でも帰らなきゃキャリアが・・・・不景気だから選択肢はないし・・・」という切迫したうわごとを繰り返しまくり。
居間で冷えピタをおでこに貼り付けながら、仕方なくテレビでイタリアの番組を見続けていた彼ですが、イタリア腐敗政治特集番組ばかりやっていたお陰でタダでさえ熱がある彼の精神的コンディションは最悪。
「イタリアって最悪だわ・・・俺やっぱりイタリア嫌い・・・ベルルスコーニ最悪・・・・こんな犯罪者ばかりの国どうにかなってしまえ」という言葉がうわごとに加わり家の中の空気はどんより濁りまくり。

そんな中3日ほどリスボン郊外でゴルフ三昧された「とあるお方」の御一行と「明日帰る前にシカゴ帰りのご主人もご一緒に」とまたお声がかかり、Caldoverdeさんと一緒に再びリスボン近郊にある和食レストランへ。
旦那も「そんなマリが絶賛するほど面白くて楽しくて素晴らしい方なら是非お会いしたい」というので熱さましのアスピリンを飲んで気合を入れて行ったはいいのですが・・・・・

この日本のお客様達は大のイタリア贔屓。
私も前回彼らとイタリアのおかしい話ばかりで盛り上がっていたので、またその続きになるような話でもできたらいいのにな、なんて期待してました。
で、その伝統芸能のお方も楽しそうに「僕ね、イタリア大好きで。今日もほら、イタリアの服を着てきたんだよ」とわざわざうちの旦那に笑顔で披露してくださったんですね。
そのまま前回の続きにもなるイタリアの楽しいお話に話題を移行させていくには絶妙なきっかけとタイミング。

しかしうちの旦那は周辺の「イタリア大好き」盛り上がりの空気を一切読まず、いえ、読めず、

「あ、僕、イタリアきらいですから」

と一言。

はははは・・・・というその場を取り繕うなんともいえない乾いた焦り笑いが響きます。
ははははは・・・・


それでも何とか楽しく過ごせた一夜ではあったのですが、この世界屈指のガリベン大学シカゴ大学でさらにガリベンに磨きをかけているうちの旦那、まあたまたま風邪も引いてたし、その日も丸一日「イタリア腐敗政治・赤い旅団モーロ氏殺害からベルルスコーニに至るまで」という番組を見まくっていたその煽りもあるのでしょうが。

まあ、でももともとクソ真面目だし、場を読まなくても別に支障のない仕事してるわけですしね。

落ち込むそんな彼を慰めてあげようって事で昨日ポルトガルの首相が賄賂で5000万だか受け取って建設したっていうアウトレットモールへ連れて行き、気に入りのイタリアの靴(Valle Verdeという大変履き心地もよくてデザインもそこその靴、店で150ユーロがここでは一速25ユーロ)を買い、それでやっと気を取り戻してくれました。

で、私もなんだかいろんなものを買ってしまい、買い物袋を両手に抱えて得した気分で心から喜んで笑っていたらいきなり

「君さ、大学時代はコミュニストだったんだよね? キューバでサトウキビ刈ったんだよね? 悪いけど今どこの角度から見ても完全な買い物好きな日本人にしか見えない。こんなに買い物袋ぶら下げて歩くなんてあまりに恥ずかしいよ」

場を読めない旦那との暮らしはいろいろ大変ですよ、ほんと。
私はもう慣れてきて別に何も感じなくなってますけどね、ええ。

ああ、長くなっちゃった・・・・ここまで読んでくださった方、貴重なお時間を奪ってしまってすみませんでした・・・
by dersuebeppi | 2009-03-23 21:20

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