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カブトムシブリーダーになります

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シゲル




ことの始まりは、行きつけの美容室。
そこで「ヤマザキさん、虫好きだしカブトムシのペアいりませんか」とお声がけいただき、まあ、毎年うちにカブトムシ夫妻がご臨終までの期間過ごすのは定例になっているので、今年も引き受けることにした。

我が家にこのカブトムシ夫妻が届いたのは8月のお盆の頃。すでに成虫となって一ヶ月半はすぎていた模様。

もっと大きめの住処に移そうと引越し作業を始めたところ、なんと土中からもう一匹メスが。三角関係だったのか。


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三角関係



わたしはオスカブトムシを「シゲル」、表に出ていたうっすら茶の毛が目立つメスカブトムシを正妻ヨシ子、そして土中に身を隠していたピチピチの方を妾のフミ代と命名した。

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フミ代



シゲルは繁殖本能が旺盛だった。
現場を見たことはないが、土を掘ると毎度数個の卵が産み落とされている。
私は別の水槽にネットで購入したハイクオリティキノコマット(土)を入れ、そこにせっせと卵を移し替えた。
卵は数日おきに産み落とされている。
正妻ヨシ子のものなのか、妾のフミ代のものかはわからない。
ただ、とにかく卵は日々見つかった。

そうこうしているうちに9月も半ばとなり、正妻のヨシ子が急遽した。
しかしシゲルは相変わらず毎日昆虫ゼリーをカップ一つ以上平らげるほど元気だし、フミ代も心なしか頻繁に表に出てくるようになったように見えた。

そんなある日、空になった昆虫ゼリーのカップを片付けようと、指を伸ばしたところ、急にシゲルが私の指に強い反応を見せ、がっしりとしがみついてきた。
甲虫を上から掴むことはあっても、こんなに腹部にあたる前胸腹板や節足部分を強く押し付けられたことは人生で初めてだったので、わずかに感動を覚える。子供の頃から大好きであり続けてきた甲虫とやっと心が通じた気がした、その時だった。シゲルが私の日本の指に強く強くしがみついたまま、妙な動きを始めたのである。

頭部と二つの触覚を細かく震わせ、オレンジ色の唇舌も長く伸びている。
「いたたた、シゲル! 痛えよ!」と騒いでいると猫が様子をのぞきにきた。
シゲルをもう片方の手で持ち上げようにも、6本の脚は私の指にがっしりと食い込んだまままったく離れる意思はなさそうだ。

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シゲルは妾のフミ代だけでは飽き足らず、私の指にまで発情をしたのである。

かつて「昆虫探偵ヨシダヨシミ」という傑作漫画を読んでいて、カブトムシの繁殖欲と横柄さに笑ったものだが、実際自分の身にも起こってしまった。

同業者のとり・みきにそれを報告すると「良い子が生まれますように」というコメントとこのような写真が送られてきた。


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シゲルの旺盛さは、その後私の仕事場を訪ねてきた様々な人々も目撃することとなり、もはやシゲルはある意味この日本の仕事場においてもっと生命力ある生き物としてその絶対的存在感を放つようになっていった。

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そうこうしているうちに、シゲルがヨシ子とフミ代に産み落とさせた卵が、なんとみなしっかりプニプニの幼虫になっているではないか!!
透明の水槽の底を見ると、びっしり白いプニプニがうごめいている。

「うわああああああ」と自称昆虫好きらしからぬうろたえの声が仕事場に響いた。しかし、すぐに冷静を取り戻し、ネットで大きめの衣装ケースと腐葉土マットを50リットル購入。ここに早く移し替えなければ、この子らはこの狭い水槽の中でパンパンになってしまうにちがいない。その絵面を想像しただけで居ても立ってもいられなくなった。

ちょうどその時期に箱根の養老孟司氏の家を訪れ、栃木県から訪ねてきていたご友人がカブトムシを大量に繁殖させているというのであれこれノウハウを伺うことができた。

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仕事場のマンションの理事会の日に衣装ケースと土が届き、ケースを熱湯消毒、土が過熱していないか温度を確認してからさっそく幼虫の移し替え作業に入る。
原稿仕事もたまっているので、カブトムシケアにばかり没頭しているわけにはいかないとわかっていつつも、水槽にパンパンになった幼虫だけは勘弁してほしいと必死で移し替えに入る。

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↓幼虫写真(苦手な人注意)
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閲覧注意


でかい。
なんたることだ。
個体差はあるが、土もフンだらけだし、あんたたち、もうなんなのよ、なんでもうこんなにあっという間にでかいのよおっ!!と大声でひとりごちながら黙々と作業を続ける。

おそらく数は二十数体。シゲル、おまえの子孫だらけじゃないか!とシゲルに思わず声を上げるが、シゲルはポーカーフェイスのままだ。

その3日後、突然妾のフミ代が亡くなった。
私が指に攻撃をされると思わずフミ代をシゲルに押し付けようと何度か試みたことがあったが、そのたびフミ代は「やめて、勘弁してください」と逃げてしまう。その節は申し訳ないことしましたと心で謝る。

シゲルはその後も絶好調だった。
絶好調だったが、昨日の夜、家に戻ると腹を見せて水槽の中でひっくりかえっている。

シゲル!?! と何度か叫ぶも反応はない。指の間に乗せても、もうシゲルの体はぴくりとも動かなかった。あまりに唐突な死だった。なんだかんだで正妻がなくなり、妾にも先立たれて、意気消沈していたのかもしれない。

そして今朝、シゲル亡き後の水槽を掃除しようと朽ち木を捨てたり土をゴミ袋に詰めようとしていると、中からころりと小さなものが転がりでてきた。幼虫だ!しかもまだ小さい。
「まさか!?」と思って探ってみると、でてくるでてくる、幼虫になったばかりの赤ちゃんがゴロゴロゴロゴロ。
しかも、なんと卵まで出てきたではないか。フミ代はなんとなくなる直前まで卵を産んでいたのだ!!
すでに私が収集した幼虫が二十数体、それで全てではなかったのだ。
おそるべしオスカブトムシ、シゲル。

今朝、私は再び現れたさらに幼虫たちを、新鮮な昆虫マットを敷き詰めた新しい水槽に移し替えた。
もし来年の春全てが羽化するとなると、総勢で50匹近くのカブトムシが現れることになる。


わたしはいったい何をやっているのか。

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先日うちにきていた歴史学者と俳優のSさんがそれぞれお子様たちが虫に興味があるということで引き取ってくれるという。もう少し大きめの幼虫になったらお渡しすることにしよう。シゲルを指に乗せて喜んでいた女流作家にもあげよう。

30年後には昆虫がほとんどいなくなるのではないかと危惧される昨今、シゲルのような繁殖欲旺盛なカブトムシにはちょっと励まされた気持ちになった。カブトムシはメスとオス半分半分に産むというから、ということはこれを放っておくとさらに倍になる。強烈なシゲルの遺伝子を継いだブトムシがこの家に溢れる日がくるかもしれない。

冷静になれ、わたし。

成虫になるのはまだずっと先のことではあるが、少しづつ引受先を探すことにするか。


by dersuebeppi | 2019-09-26 11:49

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