物議を醸した原作使用料100万円の件に関して
2013年 03月 04日
以下、弁護士氏のコメントです
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漫画家ヤマザキマリさんのTV番組でのコメントについて
当事務所の代表弁護士、四宮隆史です。
漫画家ヤマザキマリさんの契約交渉や契約管理等の代理人を務めております。
今年2月23日(土)にTBSで放送されたバラエティ番組『ジョブチューン』において、ヤマザキさんが、『テルマエロマエ』の映画化について受領した原作使用料が約100万円だったと告白して波紋を呼んでいます。
インターネット上でも、本件に関連するツイート、ブログ、ニュース記事が多く公開されました。その大半は、ヤマザキさんを支持するものでしたが、あたかも映画の製作者であるフジテレビが漫画家を搾取しているかのような論調が広がっていることに、ヤマザキさんも心を痛めています。
そこで、代理人弁護士である私からもコメントを公開すべきと考えました。
まず、前提として皆様にご理解いただきたいのは、映画『テルマエロマエ』の製作者であるフジテレビと直接の契約関係にあるのは、ヤマザキさんではなく、出版社です。
ヤマザキさんの作品の二次利用については、出版社が対外的な窓口となる権利を持っています。よって、ヤマザキさんがフジテレビと直接、契約の交渉をすることは出来ません。当然、原作使用料について、(今のところ)ヤマザキさんとフジテレビが交渉する余地はありません。
このため、ヤマザキさんが『テルマエロマエ』の映画化にあたって、フジテレビと交渉し、交渉に破れて(あるいはフジテレビに押し切られて)原作使用料が低額に抑えられてしまった、などという事実は一切ありません。
つい最近まで、出版社はあくまでも作家から「出版権」のライセンスを受けるか、又は、著作権法上の出版権の設定を受けているに過ぎず、書籍の二次利用(映画化やゲーム化等)について積極的に自らの権利を主張することはありませんでした。
しかし、昨今の紙媒体の出版事業の低迷や、電子書籍の普及もあって、出版社が、「紙媒体」での出版権だけではなく、書籍の電子化や、映画化・ゲーム化等の二次利用についても出版社独自の権利を主張をするようになっています。
この傾向自体は、出版社の事業戦略上、当然のことであろうと考えますし、極めて合理的なことです。
しかし、あまりにも出版社がこの傾向を意識し過ぎる結果、(全体的に)出版社と作家の間に少しずつ「溝」が生じ始めている、というのが、私の実感です。
出版社は自らの立場や権限を死守しようとして、作家に十分な説明をしようとしない・・・
他方、作家は、著作権者であるにもかかわらず、出版社が対外的な交渉窓口を持っているため、自分の作品がどういう条件で売られているかを、知ることすら出来ない状況に苛立ちをつのらせている・・・
実は、似たような例は、他のエンタテインメント業界でも生じています。
例えば、芸能プロダクションとタレントの関係が挙げられます。
タレントは、どんなに売れっ子になっても、プロダクションに指示されるがままに芸能活動をこなす訳ですが、ふと、「自分の権利はどうなっているんだろう?自分の芸能活動によって、もっと大きな金額が動いているはずなのに、自分が受け取っている金額は、どうしてこんなに少ないんだろう」と疑問を感じ始めます。
しかし、その疑問をプロダクションにぶつけても、納得のできる回答が返ってこない・・・。「もしかして情報が隠蔽されているのでは?自分は搾取されているのでは?」と感じるようになり、そこで初めてプロダクションに対する不満を明確に意識するようになる。その結果、「事務所の移籍騒動」が生じる・・・
こういった事例は、メディアで報道されていない場所でも、頻繁に生じています。
出版社と作家、芸能プロダクションとタレント、レコード会社とアーティスト・・・この両者の関係は、客観的にみると、なかなか興味深い関係といえます。
「会社と従業員」という主従関係はなく、契約当事者でもあり、ビジネスパートナーでもある一方、家族や親子のような関係でもある。
この両面(ビジネスパートナーであるという側面と、ファミリーであるという側面)を、うまくコントロールして作家と接している出版社では、作家との騒動は生じません。
しかし、出版社という業態の会社は、日本国内に約4,000社あると言われていますが、その多くが、急激なデジタル化、多メディア化、ソーシャル化の流れに追いついていけず、作家との距離の取り方、コミュニケーションの図り方に苦慮し、その結果、「トラブル」という形になって問題が顕在化して初めて、問題を自覚して事態の収集に躍起になる、という流れが生じています。
作家と出版社は、契約の当事者です。契約の当事者は、双方とも、権利を有し、義務を負います。
作家は、瑕疵のない、ピカピカの才能の発露たる作品とその権利を出版社に預ける義務を負い、他方、出版社も、作家に対して様々な責任を負います。その責任の一つに、当然、「説明責任」も含まれます。
作家が、契約上の責任や義務を十分に果たしているにもかかわらず、出版社から十分な説明や回答を受けていなければ、それは契約当事者の一方しか十分な義務を果たしていない、という偏った関係になります。その逆もまた、しかりです。
以上、長くなりましたが、本件は、あくまでも契約当事者である出版社とヤマザキさんの問題であり、映画の製作主体であるフジテレビとは直接、関係はありません。
もちろん、今後、ヤマザキさんが直接、フジテレビと今後のことについて話し合う場面が生じるかもしれませんが、少なくとも現段階では、フジテレビがどうのこうの、ということは全く意図するところではありません。
さらに、ヤマザキさんは、「100万円」という金額に不満を抱いているものではありません。「なぜ100万円なのか?」について十分な説明を受けていないことに疑問を抱いています。
では、なぜ金額を問題にしたかというと、この金額は、作品を利用する側の、作品に対する「リスペクト」の度合いを表す、重要な指標になるからです。
金額の多寡は問題ではありません。自分が知り得ないところで、第三者同士が自分の作品の価値を決め、十分な説明を受けることができず、結論だけ知らされる・・・この状態が続くと「作品をリスペクトする気持ちがないのではないか?」という不審につながっていきます。
特にヤマザキさんの場合、海外に居住されており、旦那さんがイタリアの方である、ということで、日本のエンタテインメント業界の商慣習が海外と異なることに違和感を覚えざるを得ず、これまでご家族に対する説明に苦慮してきた、という事情もあります。
現在、著作権法を改正して、出版社に「著作隣接権(出版物に係る権利)」を付与しようとする動きがあり、専門家による検討が進んでいますが、出版社に新しい権利を付与することに対して、一部の作家や漫画家から懸念が表明されています。
こういった動きも、法的なことではなく、コミュニケーションの問題であると考えています。特に「人的要素」が強いエンタテインメントビジネスにおいては、それがなにより大事なことであると考えています。
以上の点をご理解いただきまして、ヤマザキマリ作品はもちろんのこと、DVD発売、ネット配信、テレビ放映等が始まっている映画『テルマエロマエ』、さらに現在、製作段階に入っている続編映画を、引き続きご支援いただけますよう宜しくお願い申し上げます。なにはともあれ、作品には一切、罪はありません。
なお、本件につき、ご質問やお問い合わせがある場合には、以下までご連絡ください。
E&R総合法律会計事務所
代表弁護士 四宮隆史(しのみや たかし)
TEL: 03-5789-5877
FAX: 03-5789-5879
mail: info@entertainment-andr-rights.com
Twitter: @ebisukara5hun
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漫画家ヤマザキマリさんのTV番組でのコメントについて
当事務所の代表弁護士、四宮隆史です。
漫画家ヤマザキマリさんの契約交渉や契約管理等の代理人を務めております。
今年2月23日(土)にTBSで放送されたバラエティ番組『ジョブチューン』において、ヤマザキさんが、『テルマエロマエ』の映画化について受領した原作使用料が約100万円だったと告白して波紋を呼んでいます。
インターネット上でも、本件に関連するツイート、ブログ、ニュース記事が多く公開されました。その大半は、ヤマザキさんを支持するものでしたが、あたかも映画の製作者であるフジテレビが漫画家を搾取しているかのような論調が広がっていることに、ヤマザキさんも心を痛めています。
そこで、代理人弁護士である私からもコメントを公開すべきと考えました。
まず、前提として皆様にご理解いただきたいのは、映画『テルマエロマエ』の製作者であるフジテレビと直接の契約関係にあるのは、ヤマザキさんではなく、出版社です。
ヤマザキさんの作品の二次利用については、出版社が対外的な窓口となる権利を持っています。よって、ヤマザキさんがフジテレビと直接、契約の交渉をすることは出来ません。当然、原作使用料について、(今のところ)ヤマザキさんとフジテレビが交渉する余地はありません。
このため、ヤマザキさんが『テルマエロマエ』の映画化にあたって、フジテレビと交渉し、交渉に破れて(あるいはフジテレビに押し切られて)原作使用料が低額に抑えられてしまった、などという事実は一切ありません。
つい最近まで、出版社はあくまでも作家から「出版権」のライセンスを受けるか、又は、著作権法上の出版権の設定を受けているに過ぎず、書籍の二次利用(映画化やゲーム化等)について積極的に自らの権利を主張することはありませんでした。
しかし、昨今の紙媒体の出版事業の低迷や、電子書籍の普及もあって、出版社が、「紙媒体」での出版権だけではなく、書籍の電子化や、映画化・ゲーム化等の二次利用についても出版社独自の権利を主張をするようになっています。
この傾向自体は、出版社の事業戦略上、当然のことであろうと考えますし、極めて合理的なことです。
しかし、あまりにも出版社がこの傾向を意識し過ぎる結果、(全体的に)出版社と作家の間に少しずつ「溝」が生じ始めている、というのが、私の実感です。
出版社は自らの立場や権限を死守しようとして、作家に十分な説明をしようとしない・・・
他方、作家は、著作権者であるにもかかわらず、出版社が対外的な交渉窓口を持っているため、自分の作品がどういう条件で売られているかを、知ることすら出来ない状況に苛立ちをつのらせている・・・
実は、似たような例は、他のエンタテインメント業界でも生じています。
例えば、芸能プロダクションとタレントの関係が挙げられます。
タレントは、どんなに売れっ子になっても、プロダクションに指示されるがままに芸能活動をこなす訳ですが、ふと、「自分の権利はどうなっているんだろう?自分の芸能活動によって、もっと大きな金額が動いているはずなのに、自分が受け取っている金額は、どうしてこんなに少ないんだろう」と疑問を感じ始めます。
しかし、その疑問をプロダクションにぶつけても、納得のできる回答が返ってこない・・・。「もしかして情報が隠蔽されているのでは?自分は搾取されているのでは?」と感じるようになり、そこで初めてプロダクションに対する不満を明確に意識するようになる。その結果、「事務所の移籍騒動」が生じる・・・
こういった事例は、メディアで報道されていない場所でも、頻繁に生じています。
出版社と作家、芸能プロダクションとタレント、レコード会社とアーティスト・・・この両者の関係は、客観的にみると、なかなか興味深い関係といえます。
「会社と従業員」という主従関係はなく、契約当事者でもあり、ビジネスパートナーでもある一方、家族や親子のような関係でもある。
この両面(ビジネスパートナーであるという側面と、ファミリーであるという側面)を、うまくコントロールして作家と接している出版社では、作家との騒動は生じません。
しかし、出版社という業態の会社は、日本国内に約4,000社あると言われていますが、その多くが、急激なデジタル化、多メディア化、ソーシャル化の流れに追いついていけず、作家との距離の取り方、コミュニケーションの図り方に苦慮し、その結果、「トラブル」という形になって問題が顕在化して初めて、問題を自覚して事態の収集に躍起になる、という流れが生じています。
作家と出版社は、契約の当事者です。契約の当事者は、双方とも、権利を有し、義務を負います。
作家は、瑕疵のない、ピカピカの才能の発露たる作品とその権利を出版社に預ける義務を負い、他方、出版社も、作家に対して様々な責任を負います。その責任の一つに、当然、「説明責任」も含まれます。
作家が、契約上の責任や義務を十分に果たしているにもかかわらず、出版社から十分な説明や回答を受けていなければ、それは契約当事者の一方しか十分な義務を果たしていない、という偏った関係になります。その逆もまた、しかりです。
以上、長くなりましたが、本件は、あくまでも契約当事者である出版社とヤマザキさんの問題であり、映画の製作主体であるフジテレビとは直接、関係はありません。
もちろん、今後、ヤマザキさんが直接、フジテレビと今後のことについて話し合う場面が生じるかもしれませんが、少なくとも現段階では、フジテレビがどうのこうの、ということは全く意図するところではありません。
さらに、ヤマザキさんは、「100万円」という金額に不満を抱いているものではありません。「なぜ100万円なのか?」について十分な説明を受けていないことに疑問を抱いています。
では、なぜ金額を問題にしたかというと、この金額は、作品を利用する側の、作品に対する「リスペクト」の度合いを表す、重要な指標になるからです。
金額の多寡は問題ではありません。自分が知り得ないところで、第三者同士が自分の作品の価値を決め、十分な説明を受けることができず、結論だけ知らされる・・・この状態が続くと「作品をリスペクトする気持ちがないのではないか?」という不審につながっていきます。
特にヤマザキさんの場合、海外に居住されており、旦那さんがイタリアの方である、ということで、日本のエンタテインメント業界の商慣習が海外と異なることに違和感を覚えざるを得ず、これまでご家族に対する説明に苦慮してきた、という事情もあります。
現在、著作権法を改正して、出版社に「著作隣接権(出版物に係る権利)」を付与しようとする動きがあり、専門家による検討が進んでいますが、出版社に新しい権利を付与することに対して、一部の作家や漫画家から懸念が表明されています。
こういった動きも、法的なことではなく、コミュニケーションの問題であると考えています。特に「人的要素」が強いエンタテインメントビジネスにおいては、それがなにより大事なことであると考えています。
以上の点をご理解いただきまして、ヤマザキマリ作品はもちろんのこと、DVD発売、ネット配信、テレビ放映等が始まっている映画『テルマエロマエ』、さらに現在、製作段階に入っている続編映画を、引き続きご支援いただけますよう宜しくお願い申し上げます。なにはともあれ、作品には一切、罪はありません。
なお、本件につき、ご質問やお問い合わせがある場合には、以下までご連絡ください。
E&R総合法律会計事務所
代表弁護士 四宮隆史(しのみや たかし)
TEL: 03-5789-5877
FAX: 03-5789-5879
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Twitter: @ebisukara5hun
by dersuebeppi
| 2013-03-04 12:43