アラビアドラ猫

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うちのネコはお風呂場の、便座の向かいにおいてある木製の物干しの支え棒で爪を研ぎます。

朝、ベットから起き上がったその足でそのお風呂場のドアを開けると、さっきまで足元で寝ていたネコもささーっと軽やかに私の足元をすり抜け、すぐにその爪とぎ場へ行ってバリバリやるわけですね。

それはまあ、いいんですけど、異常なのはそれを見つめながらトイレに座って用を足す人間の言葉ですよ。

「んまああ~ うんまいねええ~ すごいねええ~ つめとぎじょんずだねええ~ いいこいいこお~ おりこうさ~ん」

今朝はこんな台詞を日本語でつぶやく旦那の声が風呂場の向こうから、ネコの爪とぎの音と一緒に聞こえてきました。

日本語を話せぬ彼がなぜ流暢にこんな脳細胞がどうかしてしまったかのような日本語のネコ撫で声を駆使できるかというと、それは明らかにわたくしから感染したからです。
耳にする機会の多い言葉ほど覚えるのも早い、というわけですね。

それから

このネコは私が仕事を始めると必ず机の上に来て横たわるのですが、それをどうしても追い払えないわたくし。
追い払えないどころか顔を彼の白い毛に覆われた腹にうずめてふんがふんが匂いを嗅ぐ。
それがもう、なんていうか、いい匂いでしてねえ~
こう、仕事なんてもう二の次?みたいな気分にさせられる、そんな覚醒作用を催させてくれるのです。

そんなことをしていると旦那も「あ、ずるい!」と走りよってきて、同じように顔をうずめて匂いを嗅ぎ、目を空ろにしながら
「おほおお~ むふうう~ 」
揚句
「これぞしあわせのにおいだ~」
とかため息ついてるわけです。
ネコはじっとしてますけどね、たまに虫の居所が悪くて頭叩かれることもありますよ。

もう完全にネコ毒にやれてますね、うちの家族は。

「もじょもじょなのねええーん」」
「こんなにもこもこに生まれたのオ~ えらいねええ~」
「んまああ~まんまんまあるいの~ いいわねええ~ すてきねええ~」

意味不明。

ところでうちのネコは4年前、シリアのダマスカスに暮らしていた時、マンションの入り口付近で車におびえてぶるぶるしているところを見つけ出され、無理やり我が家の一員になったのでした。当時は手のひらに乗るくらいの大きさでございましたから、多分生後一ヶ月とか、そんなもんだったんじゃないでしょうか。

アラビア人は犬は嫌いますが、猫は何だかんだで愛でていて、あの近辺だけでももうおびただしい数のネコが暮らしておりまして、それぞれのコロニーみたいなのも形成されておりました。みんないつも堂々と道路に備え付けの大型ゴミ箱周辺をうろつきまわり、人間が近くに来ても逃げるでもなく威張り腐っています。
多分うちのネコももれなく、そんなゴミ箱の中で生まれた猫の一匹に違いなく、多分彼の祖先から受け継いできた細胞の中には飼い猫だった記憶などは一抹もありません。
だからかしりませんけど、物怖じ一切なし!!

普通ネコって、環境変わると家の家具の下にもぐったり、隠れたり、そういうことするじゃないですか。
でもうちのネコはダマスカスの家につれて来られた時も、地面に足をつけたその瞬間からまるでそこに住んでいたかのように振る舞い、食べ物を催促し、飛行機でシリアからイタリアの実家へ移ったときも、その後に2500キロポルトガルまで車で移動した時も、それからいろんな場所へ旅行で連れて行ってホテルに泊まるときも、どんな時もまず怯えた試しがないのです。どこもかしこも、まるでそこはもともと彼のテリトリーであったかのような落ち着きっぷり。

ポルトガルに暮らし始めてからは、ちなみに3階のベランダから2回ほどハトを捕まえようとして落ちましたが、怪我ひとつせず、それどころかたった1日行方不明の間に裏の駐車場を我が物顔で練り歩いて周辺の人に目をつけられたほど。そのお陰で私達も人づてに彼を見つけられたのですが、今は首輪にしっかり電話番号を書き記してあります。
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こいつは多分、一度外に出てしまったら、瞬く間にドラネコに舞い戻るのでありましょう。

「爪とぎ うんまいねえ~ まあるいねええ~ん  大しゅきい~」

などとアホな声を発する飼い主のことなど一瞬にして忘れてしまうのでありましょう。

恐るべし、人間への媚を一切知らないアラビアドラ猫。
でもあと中毒になってしまった私達のために30年は生きてもらわんとね!!
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by dersuebeppi | 2007-04-04 03:05

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