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お茶の水 名曲喫茶ウィーン

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創作ノート(という程エラそうなもんでもないが)をぺらぺら捲っていたら、「今日の夢: 御茶ノ水ウィーンの皆がでてきた」という走り書きを発見。
いつの夢だったのか記憶にはないのですが、その文字を見たとたん急に目頭が熱くなりました。

本当に短い期間ではあったが、私の中に一生忘れられない記憶を作ってくれた、名曲喫茶ウィーン。

せっかくこうしてブログも立ち上げたことだから、あのしっちゃかめっちゃかなアルバイトの日々をここに記しましょう(というか、ただ単に記憶を整理したいだけ)。


今は無き名曲喫茶ウィーンとの出会い、それは・・・・1984年。私がイタリア行きを決定し、それまで通っていた某ミッションスクールを高校1年終了後にクラスメートにも内緒でこっそりと辞めて、出発予定の夏までの期間みっちりと御茶ノ水のアテネ・フランセで過ごそうと決意した時でした。
イタリアへ行くのになぜアテネ・フランセだったかは言及しないでください。
当時はイタリア語を学ぶのもそんなにメジャーなことではなかったのと、私をイタリアへ招聘してくれたマルコ爺さんがフランス語と英語べらべらだったので、とりあえず彼との必要最低限な会話をマスターする意図があったから、だったと思われます。

春にな、窮屈だったそれまでの女子高とオサラバして、大泉学園の町から御茶ノ水までの道のりを楽しく通う日々がスタートいたしました。

アテネ・フランセで振り分けられたクラスの生徒は浪人生が半数を占めていましたが、中にはこの人仕事はどうしているんだろう?と疑問を抱かせられるような働き盛りの男性や、80歳近くの爺さんや、可愛いくておしゃれで、とりあえず遊びたいから大学には行かなかった、というよな人たちも混ざっておりました。
そう、あれは今思えば日本がまさに華々しきバブルを迎え入れようとしていたころですね。

街行くこじゃれた若者の小脇には「BIGI」やら「Melrose」だのと、だいたいそこでいくらくらいお金を使ったのかが想定できるようなブランド名が記されたビニールの袋が二つ折になって挟み込まれ、ますます小型化が進むウォークマンでスタイルカウンシルやらU2を聞きながら、そこが日本であることを忘れて歩くことが可能なような、そんな時期でした。 


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                 スタイル・カウンシルのふたり

私も当時は17歳。そういった周囲から発されるスタイリッシュ誘惑に巻き込まれないわけがありません。
欲しいものもいっぱいだし、買いたいカセット(当時はCDじゃない。カセットに2500円とか払ってたなんて信じられませんが)いっぱいだし。
だけどうちの母親はむかしから清貧ポリシーまっしぐらの「暮らしの手帳」愛読者で、欲しいものがあると、「わかった。じゃ作ってあげるね」と答えてくれる人でした。
だからお小遣いも、必要ではないという理由からそんなにもらえなかった私は、アテネ・フランセのおしゃれなお姉さんたちや、御茶ノ水界隈の若者を見るたびにむなしいため息をつくしかなかったのです。

そんなある日、学校帰りにぶらぶらと御茶ノ水界隈を歩いていて、ふと目に止まった一枚の求人広告の貼り紙。
「求む。ウェイトレス。名曲喫茶ウィーン」

隣は丸善。向かいには画材屋さん。なかなかアカデミックな環境じゃなういですか

一日考えてから、どうしても「BIGI」の二つ折り袋を小脇にはさんでみたい執念に負けて、思い切ってこの張り紙の場所に電話で連絡を入れてみた私。
母には内緒でしたが、オーケストラの団員である彼女のこと、最悪「だって、名曲喫茶だよ!? 名曲が聞けるんだよ!!」と言えば許してくれそうな気がした上での決断でした。

つづく。
by dersuebeppi | 2006-10-21 20:21

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