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”敬語を使わない外国人”という解釈での吹替え、ほんとにもういいかげん改善してくだされ


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(写真は本文と関係ありません:我が家の猫ベレンちゃん)


大事なことだと思いますので、ちょっと執拗にアプローチを。


昨日これから撮影に入るとある番組のために頂いた台本で、私が外国の人と交わす会話のやりとりが、私の言葉はイタリア語で喋っていても”です・ます”体であるのに対し、相手のイタリア女性は「なのよ」「そうね」「るわ」「かしら」と日本語で記述されているのを見て、その女性がどんな人なのか、どんな喋り方をするかまだお会いしてもいない段階で「外国の女性はこういう話し方」と決められてしまっていることに、改めて深く深く考え込んでしまいました。

そういうフォーマットがあるのか、もしくはもうあまりにテレビの外国人がみなそういう話し方なので、外国人といえばみなこうなんだ、という自然の解釈になっているのか。

外国の人って日本のようにいろいろ縛られてなくて自由でいいよね、というむかしからの潜在意識を象徴する日本的見解なのかもしれませんが、外国の人だって知らない人と接する時には緊張もするし、失礼のない態度をとらなきゃと思っているわけです。『世界ふれあきい街歩き』のように、通りで出会った見ず知らずの現地人と手軽に楽しく国籍や他人の壁を突き破ったコミュニケーションができると思ったら、大大大間違いです。
彼らは知らない人にはそれなりの警戒心を発し、敬語の使い分けもすれば、自分に身に付いている礼儀作法を、TPOに合わせてしっかりと発揮しているのです。

うちの実家の近所にいる農家の爺さんは、すごく素朴な佇まいですが、知らない人と喋る時にはかならず丁寧な敬語をつかいます。でも彼がもし日本のメディアで吹き替えられたら、間違いなく「わし」「〇〇じゃ」とされてしまうのに違いありません。
そもそも、佇まいや職業からその人の喋り方まで決めつけるのはどうなんでしょう。

そんなことどうでもいいじゃん、見ている方が楽しければ、と思う人もいるかもしれませんが、吹き替えられている人々は映画のようなフィクションを演じている役者さんではないのです。

声を大にして言います。

これ、この外国人の上から目線吹替え、ほんっとに改善したほうがいいですよ!!!
ある意味、偏見の一種ですよ!!!


日本の人が外国の人に対して誤った見解をこのままずっと持ち続けていきそうでちょっと不安です。
実際そういう日本の人の外国人に対する失礼事件の事例はあるとも聞いています。

私は見ていないのですが、先日放送されたテレビの某バラエティ番組で、フィギュアスケーターのメドベージェワさんの吹替えが完全にアニメ声だったそうです。本人の声はもっと低いらしいのですが、セーラームーンのコスプレ演技も披露したからでしょうか。まあ日本のアニメ好きなメドベージェワさんですから、本人的にも自分の声がアニメ声になっても嫌ではなかったかもしれません。
にしても、実在の人物の“ありのまま”が視聴者に伝えられていない、という事実には間違いありません。


↓こちらに女性自身のWeb連載の記事を添付しますので宜しかったら読んでみて下さい:


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ヤマザキマリの地球のどこかでハッスル日記

「日本のメディアにおける外国人インタビュー吹替えの罠」(2017年5月9日付)



 昨今の日本では本当に海外や外国の人を扱う番組は増えたと思うのですが、日本へ帰国した折にそういった番組を何気なく見ていると、度々「ん!?」という違和感を覚える時があります。ドキュメンタリーでも旅番組でもバラエティでもいいのですが、とにかくそこに出てくる外国の人たちの日本語吹替えが必要以上に、不自然にフレンドリーになっていることです。

 

 テレビだけではありません、雑誌などで外国からの有名人のインタビューを取り上げているものもそうです。とにかく、日本で紹介される外国人のしゃべり口調の多くは〝敬語〟が適応されず、だいたいが上から目線的な態度で表現されているように感じます。

 

 この件については、数年前に発行した自著『望遠ニッポン見聞録』というエッセイの中でも触れていますが、あれから数年、今では日本を訪れる外国人観光客も増える一方。最近はオリンピック開催に向けて日本の海外に対する積極的な働きかけと意気込みがいっそう増す中で、テレビ画面や雑誌媒体などの「外国人フレンドリー口語吹替え」は相変わらず。いや、むしろ以前よりも風潮が強くなりつつあるんじゃないか、とすら思う事があるのです。

 

 いったいいつから日本のテレビ画面の中の外国人は、敬語をしゃべらなくなってしまったのでしょうか。勿論ニュースなどの報道番組や真面目なドキュメンタリーでは、政治家や学者、主に知的な人やエレガントな佇まいの年配者は丁寧な言葉で吹き替えられていますが、同じ年配者でもちょっと田舎の風情になればお爺さんやお婆さんはとたんに「そうじゃ」という口調になっているし、若者を含む大勢はインタビュアーに対して「〇〇なのさ!」「それは○○だな!」「○○だわ!」「〇〇なのよ!」と初対面であるにも関わらず、横柄と言っていいレベルの口調になっています。

 

 もうひとつ指摘したいのはこれらの口調に独特な抑揚が入っているせいで、自然さが払拭され、海外ドラマも含めて外国人というのは皆誰しもがドラマチックなしゃべり方をする人のようにも見えてしまいます。

 たしかに〝フレンドリーなしゃべり方〟は、見ている人には解り易いかもしれませんし、外国人に対して接触しやすいイメージを与える効果はあるのかもしれません。しかし、勘違いをしてはいけません。たとえば英語は昔から、まるで敬語のない言語のように思われていますが、英語にもしっかりと相手に敬ったり、距離感や教養を感じさせる表現というのは存在するのです。誰しもが「ハーイ、今日の調子はどうだい?!」みたい言葉づかいなわけではありません。

 

 私は17歳の時からイタリア語をしゃべっていますが、まず最初に周りから煩く指摘されたのは敬語の習得でした。イタリア語には文法的にも立派に敬語としての二人称が存在します。どんな田舎へ行っても、土地の人は見知らぬ人にいきなり「おまえさん」だとか「あんたは」なんて言葉は使いません。「おまえさん」や「君」としたい時には、ある程度親しくなった後に、ほとんどの人が「これから『君』と呼んでも構いませんか?」と断りを入れてきます。イタリア人は、しっかりと対人を敬うこの敬語を駆使できているかどうかで、その人の資質をはかっているところがあります。

 

 外国人など土地の言語がおぼつかない人が目上の人に対して「あんた」という人称でしゃべったとしても、それはまあ他国の人だし仕方がないと笑って許してもらえるとは思いますが、「あんた」という人称が言えるくらいなら最初に敬語の「あなた」を覚えていて欲しかった、と皆思うでしょう。他者を敬う言葉づかいを駆使できるかどうか。それによって自ずと社会的な人との付き合い方もかわってきます。イタリア人たちも良い信頼関係を保ちたい場合は、親しくない人にはマナーとしてなるべく敬語をしゃべるようにしています。

 

 一見ガラの悪そうな人にはそれなりのがらっぱちで態度のデカい吹替えが当てられていたりしますが、テレビのスピーカーのそばに耳を寄せて、吹替えの下に聞こえるその人の言葉を聴き取ると、その佇まいに反して至極丁寧で謙虚だったりする場合もあるので、そんな時はがっくりしてしまいます。フェミニンでセクシーな女性にはそれなりの、オバさん的な雰囲気の人にはまさにオバさん的な、できる男風の男性にはスタイリッシュで気取った、そういった日本語での偏見的吹替えが、それぞれの人の持つ個性や特性を消しているのではないかと心配になるのです。

 

 人間にとって声や言葉はとても大事です。その人の人格や性格を知るのに、外観だけの判断ではアテにはなりません。そんな時、私たちは声や言葉づかいから更にその人の性質を推し量ろうとします。言葉は人それぞれの個性を表現するツールなのです。だから、渋谷の街頭でインタビューを受けている一見明るく楽しいノリの外国人観光客も、日本へのリスペクトを表したくて、実は丁寧な言葉を選んで上から目線にならないように質問に答えているかもしれないのに、「日本はどうですか」という質問に対して「ずっと来てみたかったんだ、興奮してるよ!」だとか「来られて嬉しいわ、東京大好き!」で置き換えられてしまうのはいかがなものなのでしょう。本当は「前から来てみたかったんです。なので興奮しています」「日本に来られて嬉しいです。東京が大好きです」と言っているかもしれないのに……。

 

 そもそも、日本人で「嬉しいわ、大好きよ!」なんて言葉づかいでインタビューに答えた日には〝何様なんだ〟と思われたりするのに、なぜ外国人ならそういうもんだ、と皆納得してしまうのでしょうか。

 

 こうしたメディア経由の外国人フレンドリー演出によって、外国人には砕けて接すればいいんだ、敬語は必要ないんだ、という解釈に及んでしまうのは要注意です。外国人にも人と接するのが苦手なシャイな人はいるし、もの凄く丁寧な人がいるということは覚えておくべきことかもしれません。



by dersuebeppi | 2017-05-29 15:12

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